about YASUO FUJIMOTO

もっと!藤本康男

藤本康男の
人生の軌跡、
そして
人柄を知る

HIS
HISTORY
AND
PERSONALITY

個を鍛えられた
学生時代

University
days

 徳島県出身の僕が北海道へ来たのは北海道大学進学がきっかけでした。どうせ県外に行くならなるべく遠くの大学に行きたいと思って北大を選んだのです。学生時代は北大名物ともいわれる恵迪寮で過ごし、ここでのインパクトが大きかった。一般的に大学の寮というと上下関係が厳しそうなのに、それがない。その代わりいつも問われていたのが「お前の意見はどうなんだ」ということでした。自分を見つめる意味で、ずいぶん鍛えられたと思います。

 寮のなかを学生が飼っている犬が走り回っていたり、コタツの中には猫もいて。そんなゆるい感じも好きでしたね。1年生から4年生まで、10人単位の部屋サークルというものに属していて、まさに寝食をともにして生活する濃密な空間でした。何といってもいちばんの魅力は、全国から人が集まって来ること。地方によってそれぞれ気質が違うのがおもしろかったですね。

数字に目覚めた
大企業時代

Young
younger
days

 卒業後はキヤノン株式会社に就職し東京へ。入社した1987年は円高不況のまっただなかで、最初の2年間は飛び込み営業の日々。もうそれがイヤで、毎日サボってばかり(笑)。日中はお寺の涼しい境内で昼寝なんかしているものだから、日報に書くネタがない。それでも適当にごまかしていたら、上司にバレて怒鳴られました。

 修行の2年が過ぎて経理に回されるのですが、この会計業務というのがまた性に合わず。細かい数字を相手にする仕事が好きになれなかった。最初は茨城の工場に配属され悶々とした日々を送っていると、見かねた先輩が僕にいったんです。「数字の裏側にはストーリーがある」と。数字はものごとの結果であり、そのすべてにプロセスがある。それを見てこいと。なるほど、と思いましたね。現場に足を運ぶといろいろなことがわかりはじめました。業績が上がるのも下がるのも理由があり、数字はその根拠を示すもの。つまり、経理にはすべての情報が集まってくる。それを理解できたとき、仕事が俄然おもしろくなっていった。

 工場勤務から本社の予算課というセクションを経て、海外勤務も経験。あまり治安がいいとはいえないパナマと、楽園のようなマイアミという対照的な地で3年を過ごし、経理と人事を担当していた僕は社長秘書みたいな立ち位置で会社をまとめ、やりがいも感じていました。20代のうちに海外で仕事をするという得難い経験ができたことも、大きな財産になっています。

中小企業を
支援すべく独立

Start
my own
business

 一度海の外へ飛び出すと、このまま一企業に止まることが窮屈に感じられて。会社を辞めて独立すれば、これまでのスキルを活かして中小企業の支援もできる。そんな思いが次第にふくらみ、帰国後キヤノンに7年在籍し、その間、税理士の資格を取得。そして2007年、42歳のときに独立しました。

 そもそもなぜ中小企業なのかと問われれば、地域密着の事業に惹かれるんだと思います。ほら、寅さんの映画に出てくる印刷工場のタコ社長。グチも笑いも「とらや」のみんなや、近隣の人々と分かち合い汗して働く姿がいい。僕の実家も徳島で仏壇製造販売の会社をやっていたのですが、家には職人さんが大勢いて、みんなで食事を囲んでいたりする。学校から戻ると「よう坊ちゃんお帰り」なんて声をかけられて。そんな人情味のある雰囲気も好きでした。親父の会社は倒産してしまいましたが、きちんと帳簿を管理する税理士がいたら違っていたでしょう。こうしたことも中小企業支援のモチベーションになっています。

 あと、ちょっとかっこよくいえば、カール・マルクスの著書「経済学・哲学草稿」にも影響を受けたかな。マルクスは人間は類的存在、つまり社会的存在であると述べていて、であれば自分も社会に貢献できる仕事がしたいと。

 経営者というのは孤独なもので、社長の多くは本音でしゃべれる相手がいない。そこに寄り添うのが僕の役割で、地蔵のように横にいてじっと耳を傾ける。コンサルティングの仕事は、自分も企業の一員になったつもりで経営改善に取り組みます。このとき、管理会計という手法を用いて、社長や従業員の皆さんとビジョンを共有。数字という揺るぎない根拠があると、話がしやすくなるし、問題点も見つけやすい。何より、全員で目標に突き進んでいける。人は会話をすると気持ちが楽になるし、仕事も楽しくなる。企業が成長していくためには、働く人の気持ちがすごく大切。一人ひとりの役割が大きい中小企業ではなおさらです。

本と、オートバイと、
ときどきスナック

My
favorite

 プライベートでも地道に続けているものがあります。大学の恩師が主催する「古典に親しむ会」という月に1度の読書会。もう10年になります。哲学書や歴史書を読み込んで議論するのですが、これが超難解な世界。最初は完全にドロップアウトしていたのが、恩師の励ましで続けていくうちなんとなく哲学の流れが理解できるようになり、気がついたらハマっていた。仕事関係の本や小説とは頭の使い方が違い、新鮮な気分が味わえます。

 読書は、ときに旅の手引きにもなります。先日、ある国際会議でパリへ行ったのですが、サンジェルマン・デ・プレのカフェ・ド・フロールに足を運び、ここに毎日のように通ったというサルトルに思いを馳せたり、オランジェリー美術館ではモネの睡蓮に見入ったり。異国へ行くときはその土地の歴史やゆかりのある人物を勉強してから出かけます。そうすることで、旅は数倍おもしろくなりますからね。

 忙しい毎日ですが、休日はオートバイでリフレッシュも。純粋に気持ちがいいんですよ。けっこう飛ばすほうだけど、根が臆病なのでムリはしない。スローイン・ファーストアウトの安全な走りを心がけています。一度だけ、知床峠で鹿にぶつかりそうになって、ヒヤッとしたことはありますが。愛車はBMWのR1250GS。広大な北海道を走るには大きなバイクでなくちゃ。日帰りツーリングなら日本海側のオロロンラインを北上し、羽幌の手前で内陸に入り幌加内経由で帰ってくるのが好きなルート。感じのいいワインディングロードを風の音を聴きながら走っていると、それだけで心が洗われる。ゴールデンウィークなどまとまった休みがとれるときは、フェリーにバイクを積んで本州へ。よく行くのが中国・四国地方。小樽から舞鶴までの船旅がまたよくてね。沖に出るとケータイはつながらないから、寝るか本を読むか。こんなにのんびりできることって、普段ないですから。

 基本はひとり旅で、温泉宿に泊まって地元のおいしいものを食べる。お酒も飲んでお腹もふくれて、街なかのスナックへ繰り出すのが定番です。ママが一人でやっているような小さなスナックは敷居の低い社交場というか、地元の商店街の人たちとふれあういいチャンス。隣に座ったおじさんのグチを延々と聞いてあげたり、酔って盛り上がっていっしょにカラオケを歌ったり。まさに、スナックの世界です。こういう人間くさいところが、昔から好き。中小企業にも通じるところがありますよね。
 いま「管理会計コンサル養成塾」を全国に広げようと各地を回っていて、その足で新しいスナックを開拓するのも楽しみのひとつ。趣味と実益を兼ねた、明日への活力につながっています。